“女性トイレがなくなった”!?何があったか調べてみました

“女性トイレがなくなった”!?何があったか調べてみました
「女性専用のトイレ、なくなるの?」

東京・渋谷区の街なかに設置されているトイレをめぐってSNSでこんな憶測が広がり、議論を呼びました。
区は「女性トイレをなくす方向性など全くございません」とすぐさま否定。
いったい何が?

調べてみると、大きく変わりつつある日本のトイレ事情が見えてきました。
(ネットワーク報道部 柳澤あゆみ 金澤志江/首都圏局 金ノヨン)

渋谷のトイレに何が?

きっかけになったのはこちらのトイレ。
先月22日に渋谷区幡ヶ谷に設置されました。
性別などを問わず、誰でも利用できる「共用トイレ」として個室が2つ。
そして、男性用の小便器2つがあるスペースが設けられています。
一方で、女性専用のスペースはありません。
このトイレ、どう思うか、聞いてみると…。
「実際に使ってみましたけど、高齢者や障害のある人も利用しやすくて、良いデザインだと思いました。男性専用が残って女性専用がなくなるのは不平等だと思う人の気持ちも、分からなくはないです」(20代男性)
「女性専用トイレがないと、盗撮の被害にあうリスクが高くなるのではないかと心配です。多くの人が使えるのはいいことだと思いますが、女性専用を残してもよかったんじゃないでしょうか」(20代女性)
「男性専用は残すのに、どうして女性専用は無くすのか」
そんな思いを持つ人が多くいました。

なぜ、渋谷区はこうしたトイレをつくったのか。

区は現在、「誰もが安心して快適に使えるトイレ」を目指して、17か所のトイレの建て替えを進めています。

目的は、いわゆる「バリアフリートイレ」(「多機能トイレ」と呼ばれてきたもの)が混雑し、必要としている人が使いづらくなっているという課題を解消することにあるといいます。

でも、なぜ、女性専用トイレを無くすことになったのでしょうか?
渋谷区 公園課長
「女性用のトイレを無くすということではなく『共用トイレを増やす』ということなんです。男性用の小便器を別に設けたのは、共用トイレを効率よく使ってもらえるようにするためです。ただ、『女性専用トイレを残してほしい』という声があることは受け止め、あり方は検証していきますし、防犯面についても警察との連携や防犯カメラの設置など対策を進めています」

トイレに求められるもの

バリアフリートイレが混雑して使いづらいというのは、渋谷区に限った話ではありません。
混雑の背景にあるのは、多様なニーズだと指摘されています。

こうしたトイレの利用者としては、車いすや人工肛門を使う人、乳幼児を連れた人などを想像される方が多いかもしれませんが、そうした人たちだけではないんです。

たとえば「男性か、女性か」ということにとらわれず、トイレを使いたいという人です。

公共トイレに何が求められているのか、大手住宅設備メーカーの日野晶子さんらが調査したところ、「性自認がどちらでもない」とか「生まれたときに割り当てられた性別のトイレを利用することに抵抗がある」という人たちにとって、「男性か、女性か」を選ぶ必要のないバリアフリートイレはニーズがあることがわかったそうです。

また、トイレで、異なる性の人による介助が必要な人もいます。

たとえば、知的障害がある男性が母親に見守ってもらう必要がある場合、また、認知症の女性が夫や男性の親族の介助を必要とする場合などです。
この「異性介助」の当事者にも、同じようにニーズがありました。

それを踏まえ、日野さんは「多くの機能があれば、すべての課題が解決するというわけではない」と指摘します。
「LIXIL」 日野晶子さん
「設置される場所や規模、どんな人が多く使うのかによって、必要とされるトイレは変わります。スペースは限られ、あらゆる人が満足するものをつくるのは難しいことですが、想定されるニーズにどうすれば応えられるのか、そのつど、丁寧に考える必要があると思います」
みずからも車いすで生活し、バリアフリーの街づくりのコンサルティングも行っているNPO法人の大塚訓平さんは、「車いす利用者用」、「乳幼児を連れた人用」など、それぞれのニーズにあったトイレを整備してほしいと話します。
NPO「アクセシブル・ラボ」 大塚訓平 代表理事
「たとえば、私たち車いすユーザーは、ある程度の広さがないと物理的に使うことができず、ほかの階のトイレに行くのも簡単ではありません。また『異性介助』であれば、性別にかかわらず使うことができれば、それほど広さはなくてもいいと聞きます。
発達障害の人などは、たくさんの設備があるとパニックになることがあり、シンプルかつ、介助する人が一緒、または近くにいられるものがいいという話があります。機能を分散すれば利用者も分散すると思うので、本当に必要な人が、必要な時に、ちゃんとトイレを使えるようにしてほしいです」

成田空港にできた「オールジェンダー」のトイレって

バリアフリートイレが持っていた機能を分散することは国も求めていて、少しずつ広がり始めています。

このうち、性別の観点に着目したのが「オールジェンダートイレ」と呼ばれるもの。

ジェンダー意識の高まりを背景に、海外で導入の動きが広がりました。

国内でも徐々に設置が進んでいて、成田空港では、東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに3年前につくられました。

設置されたのは、第1ターミナルの1階にあるこちらのトイレです。
女性用、男性用、バリアフリートイレに加え、オールジェンダートイレが設けられました。

配置されたのは入り口を入ってすぐ、トイレ全体のちょうど真ん中。女性用、男性用、それぞれのエリアに入らずにすむよう工夫されています。
こちらが個室の中の様子です。

「異性介助」のケースを想定し、便器の周りを覆うようにカーテンが取り付けられています。
また、介助者や障害のある人が座って待てるベンチも設置。

そして、壁には特徴的な模様が描かれています。
介助をする人が用を足している間、発達障害や知的障害のある人がこれを見ることで、集中して待てるようにするための工夫だということです。

一般的なバリアフリートイレでは、性別の観点に特化してここまでの配慮はされていないものもあり、異性介助の当事者を中心に強い要望があったということです。

性別の観点からバリアフリートイレを使っていた人が、オールジェンダートイレを使うようになれば、バリアフリートイレの混雑は和らぎ、そのほかのバリアフリートイレを必要としていた人にとっても利便性は高まる。

これが、「機能分散」の効果です。

また成田空港では、男性専用も、女性専用も残したまま「オールジェンダー」のトイレがつくられました。

広大な敷地のある空港だからこそできることかもしれませんが、それも大切なことのように感じます。
成田空港会社CS・ES推進部 北川佳樹さん
「まずは1か所つくってみたという形で、反応を見たり意見を聞いたりしながらトイレの整備の在り方を検討したいです。いろいろな意見があると思いますが『これもあるし、あれもある』と選択肢を増やすという考え方が重要だと思っています」

快適なトイレ どうつくる?

大きく変わりつつあるトイレのあり方。

トイレを含め、公共交通のバリアフリー化などを調査・研究している財団の担当者は、こう指摘します。
交通エコロジー・モビリティ財団 竹島恵子さん
「トイレを使わない人はいないので、何か変化があると注目を集めやすい。そのため、今回の渋谷区のケースのような変化は戸惑いや不安を招くこともあり、十分な配慮が必要です。
なるべく多くの人が使いやすいトイレを整備しようという動きは、これからますます進んでいくと思います。必要な人が、必要な時に、それぞれの事情にあったトイレを選んで使えるよう、丁寧に意見を聴くことが必要なんだと思います」
「すべての人にとって100点満点」というトイレをつくるのは、本当に難しいと思います。

トイレはとてもセンシティブな存在で、立場を問わず、無関係な人は1人もいません。

それを忘れないことが大切なのだと思います。